人生はサーカスⅣ

湖東の賢徳

その年、京都市下京区新開にある、真宗佛光寺派本山　佛光寺さまにおい

て、真宗四派（真宗佛光寺派・真宗高田派・真宗興正派・真宗木辺派）の

第一回目の合同シンポジウムが開催されました。私も、参加させていただき

ました。

今回は、各派ごとに、代表者が研究発表し、その後、寺院内を案内していた

だき、そして・・懇親会・・といったものでした。ひじょうに、有意義な

時間を過ごすことが出来ました。

そして「懇親会」に入ると、流石にみなさん、リラックスムードで四派とも

に垣根無く、話に花がさいていったのではなかったでしょうか。

もちろん、ここはお寺・・そして、皆、僧侶です。それはそれ、「節度」を

保ちながらではありましたが。ふと、前方を見ると、ひと際機嫌がよさそう

な方がおられました。当派のF先生でありました。私は自分の教区と寺院名を

名のり挨拶をさせていただきました。そして、しばしの時間、お近くに座ら

せていただき、お話などお伺いたしました。博識なF先生のお話は、常日頃か

ら、興味深い話ばかりでした。

そうして、時間も経ち・・食事もお話も進んで行くうちに、ふいに先生が

「うんっ、君、岡山だね。尾道は近いん。」と尋ねられたのでした。

「はい、それほど遠くはありません・・私も縁のある土地です・・」といっ

たような返事をした記憶がありました。

「そうか・・尾道のな・・名前は憶えてないんやけどな・・大きな寺院

で・・」

続けて「そこには、孝慈上人が書かれた（石碑）のあるお寺があるんや」

と、懐かしそうに、説明してくださったのでした。その寺院がどこなの

か・・関心を持った私は、少し（ひつこく）その所在地を先生から聞き出そ

うとしました。そうして、おおよその見当がつきました・・・

先生がお話されている、そのお寺がどこか・・私は今度尾道を訪れたら必ず

確認してくることを・・F先生に約束したのでした・・・。

岡山へ帰り、二～三日して、尾道へ行きました。駅を降り、東へ向かい歩き

・・まぁ、しばらくは・・いつもの通りです。勝手知ったる・・といったと

こでしょうか。宝土寺を過ぎ、天寧寺も過ぎ、そしてさらに東へ進むと

西國寺への入り際に、「そのお寺」はありました。以前こちらの寺院で

イベントをされていた時に、お参りさせていただいた記憶がありました。

名刹というのにふさわしい落ち着いたお寺です。そして、おおきな本堂が

すぐに目につきました。山門を入ると「石碑」が確かにありました。

そしてそれは間違いなく「孝慈上人」の尊名が刻まれてありました・・・

そうか・・・上人は・・この地（備後）へも、来られていたのだな・・・

何か深い感慨に包まれた一瞬でした。

その後、こちらのお寺に連絡させていただき、ご住職（前住職）とお話が

出来ました。

「ええ、木辺さまですね・・昔よく・・おいでになられていました。」

受話器の向こうの声は、穏やかだった・・」

　　　　　　　　　　　　　　　　　南無阿弥陀仏

「真宗木辺派　第二十代　大興孝慈上人」

１８８１年（明治１４年）に誕生され、１９６９年（昭和４４年）に環帰

されておられる。西本願寺２１世法主明如上人（大谷光尊）の次男であり

２２世法主鏡如上人（大谷光端）の弟。そして歌人、九條　武子の兄であ

る。後継者のいなかった、本山　錦織寺に１７才で入山し、第２０代門主

となる。学識、人徳、ともに兼ね備えた人物であり、ひじょうに人望があ

った。現在でも、直接教えを受けた方々は、だれしもが、尊敬とともに恩敬

の思いを隠しきれない・・・。

九條　武子夫人の臨終において、「臨終法話」をされたのは、この兄である

孝慈上人である・・・。

昨年、令和元年はこの孝慈上人の五十回忌であった。その記念特別号の

「錦織」には、上人在世時のご活躍の姿を収めた貴重な写真が何枚も掲載

されている。一目見て、たいへん大柄な方であったことがよくわかる。

何れのお写真を拝見しても、周りの者たちより、頭一つ、いや二つほど

出ている。気迫に満ちた人物である。

何枚ものお写真の内、「大正初期　広島巡教」（大正２年より巡教開始、

タクシーはない時代）。と記されたものがある。人力車にお乗りになり

正面を見据える、真剣なる眼差しに、上人のただならぬ「覚悟」を感じ

させられる。ここから・・始まるのである。それは、「炎の巡教」といっ

てもよいのではないだろうか・・。上人、まだ三十代の時のことである。

自信教人信　　難中転更難

大悲伝普化　　真成報佛恩

　　　　　　　　　　　　　　　　南無阿弥陀仏